概要
名称  地域共生のいえづくり講演会
日程  2006年2月10日(金)13:30〜16:30
場所  名古屋栄ビルディング 特別会議室(12階)
スケジュール  講演会1
「地域共生のいえづくり〜世田谷まちづくりセンターのモデル支援事業の試みから」
世田谷まちづくりセンター所長 浅海 義治 氏

講演会2
「まちの縁側のあるいえづくり幻燈会〜名古屋での試み」
愛知産業大学大学院教授、NPO法人まちの縁側育くみ隊代表理事 延藤 安弘 氏

パネルディスカッション
「民間資源を活用した高齢者や子どもの居場所づくりの新しい形を探る」

パネリスト
浅海義治氏、延藤安弘氏、加藤武志氏、河津恵子氏

コーディネーター
村田尚生氏
内容 

目的 
地域とともに生きる地域共生のいえ。この建物のオーナー、設計者、行政(支援)それぞれの立場で、今後どのような動きをすることが望ましいか導き出すことを目的に行なう。


 チラシ






 賃貸住宅に住んだことはありますか?学生時代、社会人になったばかりの頃、結婚の前後など、若い世代の人々が「賃貸料が安い」、「駅、コンビニが近い」、「トイレと風呂は別々」、「和室よりフローリング」、「新築」などさまざまな条件の下で現在のスタンダード(流行)を意識をしながら住む場所を選ぶ。そして最近の「退職後を都市部で生活する」も一種の流行である。
 そんな時代の変遷の中で、先代から続くアパート・駐車場といった不動産経営を引き継ぎ、現在も仕事を行っているのが今回の本題、名古屋市在住の河津さんである。電卓片手に計算高い人というよりは、本当にどこにでもいるおばちゃんでありながら、しっかりと筋を通すかっこいい“おばさま”というイメージだ。河津さんと河津さんが土地を提供した地域貢献型建物“COS下北沢”の関係をひも解く中で、“なぜCOS下北沢つくろうと思ったのか”土地のオーナーとしての視点を考えていきたい。

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COS下北沢とは・・・
2004年9月1日、事業を開始したNPOコスファが運営する「地域貢献型建物」場所は下北沢駅から5分ほど歩いたところにある住宅街の一画にある緑の多い茶系の建物であり、参加団体は、一時保育、レンタルギャラリー、カフェ&バー、まちづくり活動グループ、パソコン・英会話・カルチャー教室、おかずの配達グループ。それぞれの団体がともに協力しあうことで相互に発展をし、地域に必要な役割を果たすことを目指す。
詳しくはこちら→http://cosfa.main.jp/
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■ 河津さんと下北沢のまち
 河津さんは学生時代、2年間を鉄筋造の学生寮に、もう2年間を母親が経営する下北沢の古い木造風呂なしアパート(後のCOS下北沢の場所)で過ごすことになる。この頃からすでに母親から「アパート経営のノウハウを教えられていたかも」と。
 それから34年近く経ち、6畳1間の木造アパートをずっと続けてきたが老朽化が進み、家賃を安くして対応はしてきたものの空き室が目立つようになってくる。それをきっかけに一時は手放すことも考えていた。
 過去に生活をした思い出ある下北沢のまちが変遷していく中で、今度は“アパート”という形態ではない方向で何かできないかと、知り合いを通じて東京の設計事務所の方に 「建物を大事にする方に使っていただきたい」ことを伝えた上で、“借地”というかたちで新たな方向性がないか話をもちかけた。 その後、コーディネーターの井上文さん(SAHS(=世田谷オルタナティブハウジングサポート)法人代表理事)の紹介を受け、話が進展していくこととなる。

■ オーナーとテナントさんの信頼関係の築き
 井上さんとともに現地を見学した後、「ここを活動の拠点にしたい人がいっぱいいるんですよ」といわれ、井上さんは活動を行いたい人たちとの話し合いの場をつくってくださり、後のCOS下北沢のテナントに入る“グループ菜”の食事でおもてなしを受け、気持ちを奪われる。そして、話を聞いていくうちに思いの強さにビックリし、「活動の場としてこの場所を活用していけるのではないか」と思い始める。
 しかし、当初河津さんが希望していた“借地”という状況をつくる資金が活動グループにないことから河津さんは悩むこととなる。
 時代が昔は自分のアパートの部屋の前の廊下は自分で掃除することが当たり前の時代から、自分の部屋の廊下の前にものが落ちていても拾わない、貸している側の仕事であると考える時代へと移り変わってきた。そんな中で建物を大事に住んでいただける方に貸すことが第1条件ということを思い返し、河津さんが建物を建ててお貸しすることに最終的に落ち着いた。
 それに加えて、テナント希望者の中に一時保育を行いたいと考えている方々は、すでに三軒茶屋で事業の実績があり、事業を拡大したいとのこと。高齢者や子育てのお母さんにお総菜を配達している方も10年間くらいの実績のある方であったことが河津さんにとって大きな安心材料でもあったようだ。

■ 賃貸契約、賃貸料の決め手
 「アパート経営の中でニーズの変遷は空き部屋を抱えることにつながり、お金をかけてリフォームを繰り返しても、新築のアパートができれば移り変わっていってしまう。そんな中で、またここに同じアパートを建てても同じことが繰り返されるだけ・・・」と河津さんは語る。
 テナントさんに入っていただき、建物の内装を使い勝手のよいものを選ぶことによって長く入っていただく状況の確保が可能となる。
 賃貸契約はテナントの6団体がNPO法人を設立し、NPO法人と河津さんとの契約というかたちをとり、20年の長期契約を結んだ。 NPO法人を設立したテナントさんは20年という時間の中で次の世代を育てていく覚悟でこの事業に取り組む決意をした。

 家賃設定は、“テナントさんの払える金額(かなり安い)”で落ち着いた。 これには、もしテナントさんの都合で抜けた場合、次の入居者をNPO法人が手当するという取り決めをしたため、河津さんはアパートに比べて空き部屋が生まれないことでばらつきのない収入が保証される。
 また、通常預かり保証金は家賃の何ヶ月分とするが、気持ちを示すかたちでNPO法人が基金を集めて、その常識を越える倍数の保証金を預けるとともに「私たちの思いをわかってください」という思いを河津さんに伝えられ、万が一最悪の場合でもお金は「それを手当てにすれば何とかなる」と考えスタートをきった。
 最後に河津さんは「みなさんに活用していただき、いつ訪れても暖かい空気が流れ、いろんな方に役立っているのであれば、目に見えないものを絶えずいただいていると換算すればよい」と語り、強く優しい決心のもとにはじめられたのであった。

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 現在名古屋で地域共生のいえづくりプロジェクトが実際に進行している。
 行なっているのは、COS下北沢に続いて名古屋市在住の河津さん(オーナー)と、ギター片手にまちづくり・建物の設計・大学の講師まで勤める笑顔が優しい、設計者兼コーディネーターとして加藤武志さんのタッグである。
 今回は設計者兼コーディネーターの視点からプロジェクトの概要を中心にさまざまな問題点を考えていきたい。

■ きっかけ
 名古屋市中川区で河津氏が経営されている雑木林に囲まれた木造のデイサービスセンターとアットホームな雰囲気のケアハウス・ホットハットを設計した加藤さんの仲間が加藤さんに「こんな企画あるんだけど、お金はないけどこない?」と誘い、「面白そうだから会わせてください」と、なんとも気軽に返答をしたことから、加藤さんは河津さんと2004年4月に会うこととなる。
 加藤さんは「計画のおもしろさとともに河津さんのほんわかした人柄と事業家としての鋭い視点に心をうたれた」と。

■ 見えてきた建物の方向性
 場所は名古屋市中川区にあり、土地は社会福祉法人が所有している200坪くらいの大きさ。現在は小さなトレーラーハウスと駐車場になっている。その場所にCOS下北沢同様に「事業」として場を借りる方々とビジネスをしていきたいという思いから始まっている。
 月に1回くらいのペースで、オーナー、設計者兼コーディネーターで話し合い、時にはゲストとして庭園デザイナーや大学の先生などを交えて話を進めていくことによっていろいろな専門的視点が加わる。思いが膨らむ中で方向性が徐々に見えてきた。

 建物はあまり大きな土地ではないため2、3階建てのコンパクトなもの、将来的なニーズの変遷に応じて転用ができるもの、上階は誰もいないのでは寂しい建物になるためショートステイなど滞在ができるもの、下階は庭を囲んで、玄関、水回り、トイレ、キッチンなどの共用スペースがあり、真ん中には大きなスペースで"みんなのサロン"がある。これは食事を提供したり、地域の方々もご飯を食べることができるスペースである。
 それに加えて、赤ひげ先生的まちの保健室のような診療空間や子育て保育、まちづくりグループや市民団体が集まれる場所としたい。お年寄りから地域、子どもにいたるまで自然に交わり、デイサービスやケアハウスなどもすぐ近くに隣接することから、地域全体が"大きな家族のような家"にできないかなと考えていったようだ。

■ 浮かび上がってきた問題点
 興味のある人がいないか手づくりのチラシを持って話にまわったところ、独立をしたいと思っている勤務医の男の人、子育て支援ネットワークをしている男の人、地元でまちづくり活動をされている元気な女の人の計3名の方が「おもしろい!やりたい!」と話に飛びついてこられ、河津さんの思いとビジネスとしての事業性を含めてディスカッションを行なっていく。
 例えばお医者さんは「病院を開くなら患者は1日100人以上いないとだめだから、この立地はどうなのか」、「マーケティング的には小児科がいいのか」など厳しい指摘もされる中で、出てきた問題点は2つ。

 1 集客(子どもなど)が見込める立地なのか
 ビジネスをして人が集まるのか、子育て支援をした場合子どもはいるのかなど、近くに小学校はあるが統廃合するうわさもあり、ターゲットとしている人口がいるのかが問われた。

 2 事業性
 オーナー側として事業者もリスクを背負ってビジネスパートナーとして進めていきたい思いがある。事業者側としても活動をして利益が入って家賃が払い続けられるのかが現実問題としてある。

 現在は2つの問題で「計画は面白いんだけど・・・」と二の足をふまれている段階であり、オーナー、事業者ともに大きな覚悟が必要なため計画は止まっているとのことであった。

■ 今後に向けて
 最後に加藤さんは「民間の方々が自分のもっている資産や場所、プライベートなスペースを『みんなのたまり場にしたい』、『小さな図書館みたいに自分の家をしたい』など、公に出す動きが今はたくさんある。民発民営の中には公発公営の中にはない"その空間の主(アルジ)の香り・雰囲気"がある。家の身の丈にあった家の延長線上にある公の場所が地域に点在することが豊かな暮らしにつながっていくと考えている。」と地域共生のいえの大切さを語ってくれた。
プロジェクト
東区文化のみち創造
ENGAWA design
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子どもまち学習支援
まち育て支援
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まちの縁側大楽−私からはじまるまち育て
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