概要
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名称
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私からはじまるまち育て〈つながり〉のデザイン10の極意
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日程
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2005年
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場所
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まちの縁側MOMO
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内容
目的
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まちの縁側大楽で行なわれたことを本とし、これからの人の生き方・育て方、そしてまちや社会を変えていくためのヒントを広く伝える
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チラシ
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私からはじまるまち育て
〈つながり〉のデザイン10の極意
風媒社
延藤安弘とまちづくり大楽 編
2006年5月 発行
2,310円(本体2,200+税)
ISBN 4-8331-1069-5 C 0036
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■縁が輪をなす 楽しいまちづくりの技法
個をいかしながら多様な人々がお互いを高めあう関係づくりとは?
これからの人の生き方・育て方、そしてまちや社会を
変えていくためのヒントが満載!
■目次
縁
1章 学校を拠点に〈お父さん〉のまち育て
−元気コミュニティを育くむ(岸 祐司氏)
2章 女性のしごとづくりとくらしづくり
−編集力と人間力を育くむ(森 まゆみ氏)
3章 タンケン・ハッケン・ホットケン
−地域を学び舎にするまち育て表現学習(寺本 潔氏)
演
4章 まちの良さをふりかえると未来が見えてくる
−地域資源と人間力を生かす(延藤 安弘)
5章 共感するココロを育む
−自己と他者の相互応答・わかりあう関係づくり(戸枝 陽基氏)
6章 住民の想像力で災害に備える
−ワークショップDIG(南部 美智代氏)
7章 高齢者と子どもが元気を交換する居場所づくり
−「輪切り」をこえて「つながり」のデザイン(吉田 一平氏)
円
8章 「ソフト付ハードの開発」と志民力
−公共空間を解き放て(星野 博・森 登・坪井 俊和)
9章 よりよい生活を目指してルール最小・自由最大の住まい方
−合意形成のプロセスデザイン(延藤 安弘)
10章 水平関係で応答するココロ
−みんなが主役、みんながリーダー(新谷 千晶)
終章 これからのエンギニア像
−自他ともに育みあう相互支援社会をめざして
■前口上抜粋
こんにゃくがつぶやいています。大根が微笑んでいます。こん巻きが汗を流しています……。おでんっておいしいナ。このごろは、コンビニでも大はやりです。
おでんのおいしさの秘訣は、多様な食材がお互いに持ち味を浸透しあってみんながおいしくなる関係性にあります。同じように、いろんな食材が混じりあっておいしい料理にシチューがありますが、おでんとは一線を画す重要な違いがあります。シチューは食材が溶けあって個々の形がなくなりがちですが、おでんは個々の形をくずさずに、個別に煮られるよりも一緒に鍋の中で煮られることにより、おいしさを増殖させるのです。おでんをこんなふうにとらえてみますと、おでんは、これからの人の生き方・育て方や、まちの育み、社会の変え方にとっても大切なヒントを孕んでいると思います。
第一に、個を生かしながら多様な人々がお互いを高めあう関係づくりのことを「私発協働」というとしますと、おでんはこれからの社会で大切な市民と行政と企業などの間の協働を育む発想のヒントを内に隠しもっています。長く続いてきた行政主導のやり方の限界が明らかになっている今日、住民と行政とがお互いに仲間とみなしあうパートナーシップのまち育てが待たれている状況のなかで、おでんのような「私発協働」の視点は非常に大切です。
加えて、日本のこれまでの教育や仕事においては、個性よりも平均的であることが評価されてきましたが、その弊害は社会全体にひろがっているなか、これからは、ひとりひとりの持ち味を大切にする人間的個性尊重と特異性への配慮が、教育現場でも仕事場でも地域社会の諸活動など、あらゆる現場で重要となってきます。
第二に、「わかる」ことより「楽しい」ことを上位におく生き方を「感性重視」というとしますと、おでんはそのことを示唆しています。おでんは、標準的なレシピのもとに、決まった順番で食べるやり方ではなく、地域や家庭の特性にあった食材の組み合わせ自由、食べ方もみんなで鍋を囲みながら、好きなものを自由に選んで食べるやり方に特徴があります。おでんはかかわる人々の状況・感性にあわせて、自由なプログラムが組み立てられます。
現代社会は何事も予定調和のプログラムの網目がはりめぐらされすぎることが、人々を生きにくくしています。おでんの発想にはNo programme is programme.(プログラムのないプログラム)という楽しさが潜んでいます。体系だった知識を「わかる」ことが、これまでの教育やまちづくりでは重視されてきていますが、常識や前例を超えていく、予期しないおいしさに出会える、新しい状況を生み出すことに楽しさを見出す「感性重視」のやり方が、これからのくらし方や社会づくりに必要な新しい理性を生み出していくのです。「知識重視」の社会から、状況をつくりかえる楽しさをお互いに堪能する「感性重視」の社会への移行が待たれています。
第三に、孤立を出会いに変え、対立を対話に変えることを「関係創造」というとしますと、おでんは、まさに新しい関係づくりです。すなわち、おでんは最初煮る前には冷めきった別々の食材が一定時間煮込まれる間に、相互に浸透しあい、いい匂いを発し、おいしい食べ物に変わります。バラバラの孤立状態から、まったく別のエネルギーに変わってしまいます。
地球環境の「環境破壊」が世界的に問われていますが、いまひとつ現代社会の危機は、人と人、人と自然の「関係破壊」にあります。「関係破壊」が「環境破壊」を呼んでいるのではないでしょうか。おでんの発想は、特定のイデオロギーによってそれらを是正することを超えて、時をかけて、立場を超えて、トラブルをエネルギーにする楽しさを堪能しながら「関係創造」をもたらすのです。
おでんは、これからの人の育み、まち育て、社会づくりにとって、「私発協働」「感性重視」「関係創造」という、三つの重要な視点・作法を隠し味にしています。
この隠し味を実現するには、自分とまわりをつなぐ、固さから柔らかさにつなぐ、対立を対話につなぐ、ゆるやかな〈つながり〉のデザインが求められます。おでんのようなまち育てでは、〈つながり〉の術とセンスをもつ融合コーディネーター的存在が必要です。
この融合コーディネーターは、ヒトとヒトを結ぶ「縁」づくり、状況を柔らかくつくりかえる必要性と可能性をわかりやすく説明できる「演」づくり、トラブルをエネルギーに変える「円」づくりの三つの「エン」に気づき習熟することに生きがいや新しい専門性を見出します。このような〈つながり〉のデザイナー、融合コーディネーターを、本書では「エンギニア」と呼び、近代社会の強力な社会的エンジンとなった「エンジニア」を超える、これからの地域市民社会づくりの担い手と位置づけています。このことについては序章でくわしくふれています。
本書は、到来する新しい社会像の一部をすでにそれぞれの現場で実践しておられる十一人の「エンギニア」に、自らの体験を通して創造的まち育てに赴くための〈つながり〉のデザインの極意を語ってもらったことの中身を束ねました。ここに登場する十一人の「エンギニア」は、まるでサッカーのイレブンのように司令塔的「エンギニア」からボランチ的「エンギニア」に至るまで、それぞれのフィールドで過酷にして快活な諸関係をつむぐ過程を楽しんでおられます。各章の行間にはそのナマのつぶやきが溢れています。
自分の生き方・くらし方に困惑し悩んでおられる方も、これからボランティア活動・市民活動にかかわってみようと思う方も、NPOで日夜苦闘しておられる方も、創造的市民活動のあり方を研究しておられる方も、市民との協働を企画・支援しておられる行政の方も、そして、ビジネス社会で新しいチャンスを開こうとする方も……、多様なたくさんの方々が本書にふれ活用していただき、おでんのようなまち育てをすすめる〈つながり〉のデザインを担う「エンギニア」の発想と手法が全国各地に広がっていくことがあれば、これを編集した「まちの縁側育くみ隊」のメンバーとしては望外の幸せです。)
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